Stripeは2026年4月29〜30日に開催した年次イベント「Stripe Sessions 2026」で288の新機能を発表した。その中で特に注目を集めているのが、AIエージェント向けの「Linkウォレット」だ。ユーザーがエージェントに自分のウォレットへのアクセス権を与えることで、エージェントが代わりに購入・支払いを行えるようになる。
どんな仕組みか
Linkはもともとストライプが提供するデジタルウォレットサービスだ。今回の発表でAIエージェントからも利用できる形に拡張された。
仕組みのポイントは「実際のカード情報をエージェントに渡さない」点にある。エージェントが支払いを行うとき、タスクごとに1回限り使える使い捨てカードが発行される。エージェントはそのトークンを使って決済を処理するが、本物のクレジットカード番号は一切知ることができない。

また、エージェントが勝手に購入を進めることはできない。エージェントが支出を必要とするタイミングでLinkアプリにリアルタイム通知が届き、ユーザーが承認することで初めて決済が実行される。購入履歴もアプリから確認でき、エージェントのすべての支出を把握できる。
「Shared Payment Tokens」という新しい仕組み
今回の仕組みを支えるのが「Shared Payment Tokens(SPT)」と呼ばれる新しい決済プリミティブだ。
SPTは特定の店舗・利用期間・金額上限を設定してスコープを絞ることができる。「このエージェントは最大500円まで、Amazonでのみ、今日中に使える」という形で権限を細かく制御できる。不要になったトークンはいつでも無効化(revoke)できる。
セキュリティ面ではStripe Radarによる不正検知が統合されており、不審な取引・カードテスト・盗難カードの検出・カード会社の拒否といったリスクをリアルタイムで判定する。
具体的なユースケース
LinkのページではAIエージェントが実際に役立つシナリオが示されている。
旅行中のホテル変更では、「チェックアウトを1日延長したいけど手続きを頼める?」とエージェントに頼むと、エージェントがホテルのサイトで空き確認と料金確認を行い、金額を提示してくる。ユーザーが承認すると追加料金の支払いが完了する。
すでに動いている実例として、ChatGPT上での「インスタントチェックアウト」がある。米国ユーザーがChatGPTで買い物の相談をしながらそのままEtsy出品者やShopifyマーチャント(Glossier・Vuori・SKIMSなど)から購入できる機能がすでに稼働している。これもStripeのAgentic Commerce Protocolが使われている。
GoogleとのパートナーシップによりGeminiアプリ内での購入機能も近く対応する予定で、Universal Commerce Protocol(UCP)を通じてAIチャット中にそのまま商品を買えるようになる見込みだ。
先日のCloudflare発表との関係
つい昨日、CloudflareがStripeと共同開発した「Stripe Projects」プロトコルを発表したばかりだ。AIエージェントがCloudflareアカウントの作成・ドメイン登録・デプロイまでを自律的に行えるというもので、ここでも支払いは使い捨てトークンで処理される設計になっていた。
今回のLinkウォレット発表と合わせると、Stripeがエージェント向けの決済インフラを本格的に整備しようとしていることが読み取れる。エージェントが実際にお金を使って行動する仕組みを、セキュリティを確保しながら標準化しようとする動きだ。
現時点での制限
Linkエージェントウォレットは現在米国のみで提供されており、グローバル展開は予定中とのことだ。近い将来の追加機能として、より細かいエージェント権限の制御、複数支払い手段への対応、購入履歴へのアクセス機能が予告されている。
まとめ
エージェントが人間の代わりに買い物・支払い・契約をこなす「アジェンティックコマース」の時代が現実になりつつある。StripeのLinkウォレットは「エージェントに財布を預ける」体験を安全に実現するための基盤として、今後の標準になる可能性がある。
承認フローとトークンの使い捨て設計によって、エージェントが暴走してカードを使い放題になるリスクを抑えている点が現時点での設計の肝だ。


